【解説】このコーナーのための書き下ろし。「京極ファンがアクセスしてくれるかなー」という、さもしい考えで書きました。(田中博氏のアドバイスを参考にしています。感謝!)
京極夏彦とエラリイ・クイーンの共通点
By EQV
エラリイ・クイーンと京極夏彦といったら、まったく共通点がないように思えるかもしれませんが、実はそうでもないのです。例えば、翻訳家の深町真理子はエッセイの中で、京極夏彦を「まさに“日本のエラリイ・クイーン”だ」と言っています。また、『京極夏彦の世界』収録の「あやつりの宴」(鷹城宏)では、クイーンの名前が頻出するし、野崎六助の『京極夏彦読本』にもクイーンは登場しています。京極の作風から考えると、引き合いに出すのはクイーン以外の作家の方がふさわしいように見えますが、なぜかクイーンの方が圧倒的に多いのです。
そこで、思いつくままに共通点を挙げてみることにしました。
《A》作者の共通点。
- デビュー時のミステリアスな雰囲気――デビュー当時のクイーンが「正体不明の覆面作家」だったことは言うまでもないでしょう。ちなみにクイーンは目だけを出す覆面、京極は指だけを出す手袋をしています。
- ベストセラー作家――クイーンは文句なしのベストセラー作家であり、国名シリーズ後半の売り上げはE・S・ガードナーをも上回っていました。
- グラフィック・デザイナー――クイーンの片割れフレデリック・ダネイは広告代理店でアート・ディレクターをやっていました。また、『ローマ帽子』などの装丁は、ダネイが手がけたと言われています。
- 雑誌の編集に関与――クイーンは有名な雑誌「エラリイ・クイーンズ・ミステリーマガジン」の編集長です。
- ドラマのシナリオを手がけている――アメリカで大ヒットしたラジオドラマ「クイーンの冒険」の脚本はクイーン自身が書き下ろしています。
- 優れた評論が数多く書かれている――これがクイーンにも当てはまるのは日本だけのように思われるかもしれませんが、実は海外でもディープな評論は多いのですよ。
- 古書コレクター――クイーンの方はただ集めるだけでなく、『クイーンの定員』といった書誌研究書まで出しています。
- インタビュー等に答えても、常に秘密を残している――クイーン(の二人)もけっこうあちこちで喋っていますが、合作の秘密や晩年の代作については、ついに語ることはありませんでした。
- メイン・シリーズの外伝あり――クイーンの場合はクイーン警視だけが出てくる『クイーン警視自身の事件』とライツヴィルの隣町が舞台の『ガラスの村』。ジューナ少年を主人公にしたジュニア物もあります。
- 探偵役が愛書家――探偵エラリイの初登場時のセリフは「初版本を買い逃した」でした。京極堂の場合は古書が商売ですが……。
- レギュラーキャラクターの多さ――クイーンの場合は警視の部下の警察官(フリント、リッター等)まで、ちゃんと設定がされていて、複数の作に登場・活躍します。
- 本自体へのこだわり――クイーンの場合は、目次を並べると題名と作者名になるとか、作中にメモを取るための余白を入れるとか。
- 作中に絵を入れる――ミステリーによくある見取り図のことではありません。例えばクイーンなら『最後の女』の各章の女性のシルエットなどです。
《B》作品の共通点。ネタばらしになるので作品名は省略します。
- あやつりテーマの作品あり。
- 宗教テーマの作品あり。
- 子供を失った母親が殺人を犯す作品あり。
- 死者が生きていたとしか思えない作品あり。
- 子供が殺人を犯す作品あり。
- 坊主が殺される作品あり。
- スランプの作家が出てくる作品あり。
- 病院で殺人が起こる作品あり。
- 冒頭の文と最後の文が同一の作品あり。
- 手紙の相手の錯覚によって悲劇がもたらされる作品あり。
- 愛し合う夫婦がコミニュケーションの欠如により悲劇を迎える作品あり。
さて、どうですか、京極ファンのみなさん。クイーンも読んでみたくなりましたか? ちなみにクイーン作品で「京極度」が高いのは、初期では『Yの悲劇』、中期では『ダブル・ダブル』、後期では『盤面の敵』といったあたりでしょうか。