第6回 麻耶雄嵩とエラリー・クイーン

【解説】甲影会発行の同人誌「別冊シャレード/麻耶雄嵩特集3」(1997年12月)からの再録。最初の部分は手を入れています。クイーンとの関係が薄いため、EQFCの会誌には再録しなかったのですが、麻耶雄嵩ファンのアクセスを期待して、このコーナーに再録しました。


麻耶雄嵩とエラリー・クイーン
By EQIII


  ミステリーファンクラブの老舗〈SRの会〉の会誌「SRマンスリー」1994年9月号に、関一雄氏の「『夏と冬の奏鳴曲』に関する7つの疑問」という文章が載っています。題名通りの内容で、麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』に対する疑問点を7つ、挙げたものでした。以下は、『夏と冬の奏鳴曲』に対する私の解釈を、その7つの疑問点に答える形でまとめたものです。従って、『夏と冬の奏鳴曲』の犯人等に言及していますので、未読の方は注意してください。あと、クイーンの「ドルリー・レーン四部作」を未読の方もご注意を。

  まず、関氏の「『夏と冬の奏鳴曲』に関する7つの疑問」と、それに対する私の解答です。
  (1)そもそも、和音という女性は存在したの?
    →存在したとも言えるし、しないとも言える。
 (2)20年前の映画『春と秋の奏鳴曲』が、何故、烏有に関する10年前の交通事故を予言できたの?
    →予言したわけではない。逆である。
  (3)同じく20年前の映画が、何故、烏有と桐璃の出会いを予言できたの?
    →予言したわけではない。逆である。
  (4)二人の桐璃の存在は、どちらが本物だったの?(それとも双子?)
    →もちろん双子だが、どちらも桐璃である。
  (5)メルカトル鮎の言葉は何故あれほど烏有を驚かせたの?
    →(2)と(3)の解答に気づき、自分の存在理由を知ったから。
  (5)女性編集長(和音?)と桐璃の関係は?
    →女性編集長の名前は和音。桐璃との関係は母と娘。
  (6)この作品は本当にミステリだったの?  ただの妄想小説に過ぎないのでは?
    →『翼ある闇』と姉妹編をなす、クイーン作品をモチーフにしたミステリである。

  これだけでは誰もわからないと思うので、私が考えた解決を以下に記します。
  和音はもちろん架空の存在ですが、無から生み出されたわけではなく、島のメンバーの特性を組み合わせて作られた、と書いてあります。ということは、名前もまた、メンバーの誰かから取っていなければなりません。それが現在の女性編集長だったのです。彼女は島のメンバーの一人だったわけですね。((1)の解答)
  彼女は武藤の子を産みますが、これが双子だったのです。そして、ある事情から、一人分の出生届しか出しませんでした。その一人分の名前が「桐璃」――二人の人間がひとつの名前を共有したわけです。桐璃がやたら学校を休んでいるのに出席日数不足にならないのは、二人で交互に学校に行っていたからでした。つまり、一方が学校に行っている日は、もう一方は休んでいたわけですね。((4)と(6)の解答)
  和音がこのような事をしたのは「武藤の書いたシナリオを現実に再現する」という目的のためでした。シナリオでは双子は出てこない(そしてドッペルゲンガーが出てくる?)ので、桐璃に二人一役を演じさせたわけです。
  一方、和音は、シナリオで描かれたような交通事故の体験者を捜し、ようやく見つけました。それが烏有だったのです。つまり、シナリオが烏有の体験を予言したのではなくて、シナリオにたまたま合致した体験者だったから、烏有はこの事件に巻き込まれたというわけです。((2)の解答)
  そして和音は、シナリオにそって、桐璃を烏有に近づけました。これまた、映画が二人の出会いを予言したわけではなく、映画に合わせて出会いが演出されたというわけです。((3)の解答)
  つまり、烏有の存在価値というのは、彼が偶然、シナリオに合った過去を持っていたということに過ぎなかったのです。((5)の解答)
  前作の『翼ある闇』がエラリー・クイーンの〈国名シリーズ〉を意識して構成されていたように、『夏と冬の奏鳴曲』は、同じクイーンの〈ドルリー・レーン四部作〉を下敷きにしています。正確に言うならば、その内の二作ですね。四季が「春」「夏」「秋」「冬」とあるように、レーン四部作も「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」「レーン最後の事件」の四作から成ります。本作で使われた二作というのは、夏にあたる「Yの悲劇」と冬にあたる「レーン最後の事件」――つまり「Y」と「最後の事件」がソナタを奏でているというわけです。
  本作の犯人の設定が「レーン最後の事件」と同じことは言うまでもないでしょう。「Y」の下敷きについては、烏有が映画を見るシーンと、レーンが故ヨーク・ハッターの残した文書を読むシーンを比べて見れば、すぐわかるはずです。
  従って、これはミステリなのです。((7)の解答)


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